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無担保転換社債の留保資産に抵当権が設定されたのは、1973年に「留保物件付無担保転換社債」の発行がはじまって以来、はじめてであった。
ここでは、次の点を指摘できる。
(1)受託銀行が、「留保物件付」が「担保付」と同等の効果をもっと認識していたならば、あえて「担保付」に変える必要はなかったはずである。
(2)したがって、「留保物件付」は、担保が設定されない限りは「無担保」である。
したがって、債券の格付けでは、現実に留保資産に担保が付けられ、「担保付社債」になった時点で、担保がついていることを考慮に入れればよい。
1含み益は格付けを高めるか。
1980年代後半の土地価格と株価の高騰は、大企業の保有土地や株式の取得原価(簿価〕と時価に大きな議離を生んだ。
この差額は財務諸表に計上されていない未実現の利益であり、その意味で含み益と称される。
さて、企業の資産に含み益が存在していることは、将来の社債の元利支払能力の厚みを増す役割を果たすのだろうか。
つまり、含み益が大きいから格付けは高いということがありうるのだろうか。
また、土地や株式の相場が下落し含みがなくなると、並行して格付けも下がるのだろうか。
将来の元利支払いの原資となるのは、企業の本業から生み出されるキャッシュ・フローである。
企業が収益をあげ、安定したキャッシュ・フローを確保できるメカニズムを実績として築き上げているかどうかが、将来の支払能力を予測する場合のポイントとなる。
キャッシュ・フローが生み出されるメカニズムができあがっていれば、企業は収益によって成長を続けることが可能である。
これに対して、含み益は全く異なる性格をもっ。
含み益は未実現の利益であり、将来において元利支払いのための資金が必要になったときに、現時点で計算できる未実現利益と同額の売却益を必ず確保できるという保証はない。
企業にとって売却益が必要とされるような業績悪化時は、往々にして経済環境そのものも悪化しており、現時点の売却価額をベースにして算出される含み益相当額が、売却益としてその時も確保できるとは考え難い。
さらに実際に売却したいと思った時点で資産の流動性があるかどうか、つまり売却できるかどうかという問題も大きい。
また、含み益は、ーたび実現して利益を出してしまえば、それでなくなってしまう。
すなわち、事業を継続する限り、毎年生み出される利益やキャッシュ・フローのような継続性はない。
さらに、含み益が存在することを前提として企業が行動をしている限り、企業は本業の収益を守るための大胆な改革案は打ち出しにくい。
含み益が存在する聞は、不採算部門といえども、人員を削減して撤退する方向で社内の意見をまとめるのは難しいのである。
企業経営は、さまざまな事業リスクのなかで進められる。
リスクの1つが、企業のリスク管理能力を超えて、大きなロスとなって現われることがないとはいえない。
たとえ、毎年、継続して利益を出してきた企業でも、内外の市場環境の急変や取引先の事情から、不良在庫をかかえることになり、その処分損を計上せざるをえなくなることもある。
本業のキャッシュ・フローおよび通常の支払準備資金として保有している預金等の取崩しでは資金繰りが苦しくなった場合には、企業は資金の手当をせねばならない。
たとえば、銀行などからの資金の借増し、増資、そして資産の売却などである。
このようなケースにおいて、含み益の存在は、たしかに増資余力があることと並んで、借入のみに依存しなくてよい可能性を意味し、含みを実現できれば借入が急増するのを防ぐ役割を果たすかもしれない。
したがって、含み益や増資余力のない企業に比べれば、自己資本比率を維持するのに役立つ可能性をもっといえないことはない。
株式の含み益の実現において、株式売却後にただちに買い戻されることがある。
これは取引先の株式を持ち合っている銀行において、よくみられてきた現象である。
取引関係が継続する以上、株式を売り切って保有をやめてしまうことができないという事情による。
このような行動は、利益が計上され、自己資本を増やす役割は果たすものの、買い戻しているためにキャッシュ・フローの純増にはならず\苦しい資金繰りを助ける役割は果たしえない。
土地の場合には、全くの遊休土地であればともかく、営業や生産活動に用いている土地を処分する場合には、賃借することになる。
その際には、短期的な資金の逼迫は回避できるが、長期的にはコスト上昇になりかねない。
借入を増やさず、財務リスクを抑え、高い自己資本比率を実現できたならば、そのこと自体は企業の今後の財務リスクを予測するうえで考慮に入れることができる。
したがって、これまでに「すでに実現された」含み益は、現在の財務内容を形づくっているといる意味において格付けに反映される。
しかし、まだ実現されていない含み益(これこそが本来の「含み」である)は、将来の元利支払いにおいて何らかの役割を果たせるかどうかわからない。
したがって、社債格付けの基本である「疑わしきは罰する」立場を改めて思い起こせば明白なとおり、将来の含み益が果たすかもしれない役割に賭けて格付けを高めることはできないのである。
2市場メカニズムと含み益。
資産の含み益は、80年代には、存在することが当然の前提とすら考えられていた。
しかし、90年代に入って、バブルがはじけるとともに、今後とも含み益は生み出され続けるのが前提と考える人は少なくなっている。
投資家が社債の格付けを必要とする経済システム、そして格付けが機能していく経済システムは、さまざまな分野での価格決定に市場メカニズムが十分に働くことを予定している。
したがって、格付けの機能する経済システムにおいては、含み益は当然ながら発生しにくい。
(含み益とは、必要なときには消え失せている利益だ)企業が含み益を必要とするのは、事業環境が悪化しているときが多い。
そのときに、含み益の源泉となる株価や地価が下がっていないとは保証の限りではない。
格付けはこのような蜃気楼を当てにできない。
資産が、常に市場で評価され、価格決定に市場メカニズムが働くときには、資産に含み益が発生する余地はほとんどない。
この点では、米国の企業では資産の含み益がほとんど問題にならないことが例証となろう。
言い換えると、含みとは、価格決定に市場メカニズムが働かなかった歪みである。
今日の含み益の発生の経緯をさかのぼると、収益還元計算による合理的な投資採算と無関係に資産価格(すなわち株価や地価〕が決まってきたことと並んで、長期にわたって、資産が含みを閉じ込めたまま(したがって、時価に基づく評価にさらされることなく)保有され続けてきたことがあげられる。
この点についても、今後は新しい展開を余儀なくされると考えられる。
すなわち、金利統制下では、資金配分を受けられる大企業ならば、資産を処分して資金を調達することをせずに、資産を保有し続けたまま資金を銀行から借りたほうが得策であった。
なぜなら、資産の売却益への課税を避けることができたし、また、担保になりうる資産を保有することは、銀行の貸出や社債の発行が有担保原則で行われていた状況では有利であり必要でもあった。
また、金利率がコントロールされていたので、借入を増やしても急激に金利率が上がる心配はなく、資金調達能力に影響することもほとんどなかった。
投資採算の管理も必要がなかったので徹底しておらず、不要な資産を処分するキッカケがなかった。
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